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出雲盛衰記54
 出雲盛衰記
 五十四章



 復興軍側に一人も火魅子候補がいないと知った姫御子は去り、神の遣いは蛇蝎に攫われ、九峪の奸計によって戦力の要であった香蘭紅玉親子が離反した。

 張り子の虎以下に成り下がった川辺城。
 だが、それでもなお戦うことを止めようとしない人間が、二人いた。

 一人は今更火魅子候補としての生き方を止めることは出来ない星華。ここで引いてしまえば自分の全存在が否定される。それは、例え死んでも出来ないことだった。

 そして、もう一人は亜衣。

 自らが犯してきた過ち、その幕引きを曖昧にすることを、彼の軍師はよしとしなかった。
 もとより死するつもりで、戦に望む。
 そして、そうすることで新たな耶麻台国の礎になろうと意志を固めていた。

「……思えば随分と損な役回りになったものだな」
 憑き物が落ちた……、とでも言うのだろうか。亜衣の顔からは軍師としての鬼気迫る表情が消え失せ、今は落ち着き、満ち足りた表情をしている。

「姉様。やはり、意志は変わりませんか」
 衣緒は分かっていながらも、姉に聞かずにはいられなかった。

「私は耶麻台国のために今日まで戦ってきた。それを嘘にしたくない。例えその道が間違った道であっても、その思いだけは本当だろう?」
 己の思いに殉ずる。

 自暴自棄なわけでも、何かを諦めたわけでもない。

 亜衣は、今自分が出来る最も耶麻台国の為になる事が、自らの死であると理解しているのだ。

「では、私も……」
「駄目だ」
 亜衣は衣緒が残ることを許さなかった。

 既に、亜衣は部下達に再興軍に下りたいものは下れと通達している。
 もとより傍目には勝ち目に薄い戦。
 信じるべきものに揺らいでいた弱卒の兵達は、簡単に逃げ出すはずだ。

 残るとすれば、宗像神社の者達で、それも自らが行った罪を罪と認識しているものだけだろう。

「嫌です。姉様一人でなんて」
「お前は宗像の罪など背負う歳ではない。私が死ねばそれで終わる。まぁ、多少は足掻いてみせるが。大体、羽江をどうするつもりだ? あいつを一人にするわけにはいかないだろう。ただでさえ手のかかる奴だ」
「……」
 そう言われてしまえば、衣緒には返す言葉がない。

 衣緒も分かっている。姉を止めることは出来ないし、どうあっても自分は出て行かねばならぬ事を。

「……でも、悲しいです」
「私はこれまでの宗像の罪を贖うために逝く。お前はそれを背負って生きろ。どのみち、償えるものでもないだろうが、どちらが辛いと言うことでもあるまい」
「姉様……」
「まったく、腕っ節だけは強くなっても衣緒はいつまで経っても弱いままだな」
 それでは困る、と亜衣。

 衣緒は目に浮かべた涙を拭うと、深々と頭を下げて、そして踵を返した。

「息災でな」
 去り際に聞こえた、ぶっきらぼうな姉の一言。

 溢れ出した涙を振り切るように、衣緒はその場から走り去った。



「さて……」
 亜衣の瞳に冷たさが戻る。

「話はすんだか」
「ええ」
 隣の部屋から姿を現したのは九峪。亜衣の前に腰を下ろすとため息を吐く。

「で、気は変わらないんだな?」
「愚問です」
 にべもない亜衣。九峪は大きなため息を吐いて頷いた。

「分かった。では、お前には死んで貰おう。出来れば一人たりとも死人は出したくなかったが、仕方がない」
「犠牲無しでは収まりがつかないでしょう。私の死一つで耶麻台国が復興するというのですから安いものです」
「今更言っても無駄だろうが、あまり自分をないがしろにするものじゃないぞ。他人の為の犠牲など馬鹿らしい」
「それが私の生き方ですので」

「分かった。だが、死ぬというなら有象無象に討ち取らせるワケにもいかん。意味ある死で無ければ死ぬ意味も無くなる。犬死にはごめんだろう?」
「?」
 首を傾げる亜衣。九峪の意図するところがまったく読めていなかったのだろう。

「望楼まで付き合え。お前を殺すべき権利を持ってる奴が、そこで待ってる」
 九峪は立ち上がるとそう言って部屋を出た。

 亜衣は後に続きながら、九峪の言葉を反芻する。

 ――殺すべき権利。

 それは誰もが一様に持っているといえる。
 少なくとも九洲の民であれば、耶麻台国の仇として、亜衣の命を奪う権利はあると考えていた。

 だが、九峪の示しているものは、おそらく違う。

 それは亜衣にも察せられたが、それが誰であるか全く思い浮かばなかった。



 川辺城の最も高い場所。
 街を一望出来るその場所で、赤い髪の女は目を閉じて二人が来るのを待っていた。

 気配を察し、瞼を開ける。

 亜衣は、自嘲的に笑った。
 それは九峪に対する幾ばくかの歓心と、自分がこの事実に思い当たらなかった不明さから出たものだった。

 ――確かに、私を殺す権利を有する、最上級の相手だ。

 亜衣は納得し、じっと魅土を見つめた。


 かつて、自らの言葉が引き金となって滅んだ一族。そして、その滅びは――

「いつか、いつかこういう日が来ると思っていた。いや、この日が来るのを望んでいた」
 亜衣の言葉を、魅土は黙って聞いている。

「――龍神族の滅びは、完全な無駄でしかなかった」

 あまりといえばあまりな言葉。だが、魅土は激昂しなかった。

「……正直な所、私はお前が思っているほど、お前を恨んではいない。十数年前、いくら優秀だったからと言って、十かそこらの子供の戯言を実行したのは大人達だ」
「だから私に罪はない……か? くっく、わざわざ私をいい人だと思わなくてもいいぞ。龍神族を狗根国に売り渡したのは、間違いなく私一個人だ。すでに死んだ奴らに責任を転嫁することはない」
「そうか――」
 魅土は剣を引き抜き、その刃先を亜衣へと突き付ける。

「ならば、遠慮はいらないな。同胞の仇、討たせて貰う」
 亜衣は黙って目を瞑った。

 自分がこれまで行ってきた事。
 その大半に間違いは無かったと確信している。

 少なくとも、亜衣が耶麻台国の為に出来る最善を尽くしたのは確かだ。
 それ以上の道は無かった。
 あったとしても、それはその時の亜衣の状況では実現出来なかった。

 悔いなど無い。
 振り返れば他の術があった可能性を考えることは出来たが、それはやはり結果が分かってしまったから言えること。
 現在進行形で他の選択肢など用意されなかったのは、亜衣自身がよく知っている。

 ならば、そこに悔いるべき事など何一つ無い。
 裁かれるべき立場になってしまったとしても、それは状況がそうなってしまったからで、恥ずべき事など何一つ無いのだ。

 そう、思いつつも……

 たった一つだけ後悔するべき事があるとすれば、それはどう考えても考えが足りなかった、一つの選択だけ。

 今、自分の命を絶とうとしている、この女の一族を滅ぼした選択。

 ――無駄だった。

 そう言った。
 そう、思えてしまった。

 或いは、今までの人生そのものが、その過ちを覆い隠そうとする精神から生まれたものではなかったか?

 亜衣はその先の思考を止めた。

 何を思っても、何を考えても、どのみちもう終わり。

 ならば、何を考えても全ては同じ。

 もう、選択肢を選ぶ必要は――



 魅土の剣が亜衣の首筋に向かって横薙ぎにされる。
 終焉への刹那、思考を止めた亜衣の瞳が見開かれ、不意に部屋の入り口に湧いた気配に振り返る。

 そこに立つ、自分が本当に謝るべき存在。
 生まれたときから、ずっと騙し続けてきた存在。
 道具として扱い、そして報われることなく、終わってしまうだろう存在。

 驚いた顔をしている。
 だが、刃はもう止まらない。
 切り落とすつもりで放たれた剣は、瞬きする間も無く、自分の首を刎ねるだろう。

 死に際。
 その想いを読み取ってか、
 男は確かに亜衣に聞いた。

「言い遺すことは、何かあるか?」
 それはいかなる奇跡か。それとも既に死した故に見た幻想か。
 まるで時が止まったような空間で、亜衣は確かにその声を聞き、そして答えた。

「星華を、頼みます」

 育て方が悪かったのか、それともそうし向けた自分の責任か、色々と難しいところはある。
 だが、それでも星華は身内であり、失いたくないと、思えてしまう存在だった。

「……そして、ごめんなさいと」

 生まれて初めて、亜衣は心の底から詫びるという事を知り、そして同時に――死んだ。



「――、」

 首が落ち、あふれ出た血で部屋が染まる。

 身体が崩れ落ち、ものに成り下がったそれに、星華はゆっくりと近づく。

 当惑していた。

 状況が分からず、理解を拒みながらも、目の前の出来事から目をそらすことも出来ずに。


 魅土は剣を納めると、血溜まりに座り込んで亜衣の首を見つめている星華を一瞥し、そして九峪へと視線を送った。

「区切りがついた。感謝する、九峪」
 どこか安堵でもしたかのような声。九峪は軽く頷くに留めた。

 魅土は何処か不満そうな九峪に苦笑を返し、窓から身を躍らせると、下で待っていたまーくんに飛び乗り、そのまま何処かへ飛び去っていった。


 星華は、それを視界の端に捕らえながらも、どうしていいのか分からずただ、亜衣の首を見ていた。

 騙されたと知ったときは、殺してやろうと思った。
 心の底から憎くて、悔しくて、悲しくて。

 でも、それでも何処かで期待していた。
 亜衣なら、私を見捨てはしないと。
 それは、他人から見れば血の通っているかも分からない亜衣でも、確かに人間であると知り、そして愛情を受けていたと知っていたから。

 火魅子候補でなくても、家族であることは確かだから。
 だから、最期まで付き合ってくれるのだと、一方的に思いこんでいた。

 ――だっていうのに、何? これは。

 死なれてしまったら、悪態もつけない。
 自分一人では、この先どうしたらいいのかも分からない。

「亜衣ぃ」
 巫女服に染み込む暖かな血の感触と、濃厚な鉄の臭いは、否定を決め込む星華の頭にも、否応なく現実を認めさせていく。
 名を呼ぶ声は情けなく震え。そして瞳からは止めどもなく涙が溢れる。

 分かっていた結末だ。
 嫌々ながらも、想像もしていた。
 だから、泣くほどの事でも無いはずなのに。

 涙は溢れ続ける。


 ――止めどもなく、いつまでも。













追記:
 悪いことをしていると思わなくても社会的には悪かったりすることもあるだろうし、そもそも社会的道徳観など無い(あるかもしんないけど)古代九洲においては、その判断を決めるのはどれだけ大勢に迷惑をかけたかって事でしかないはずで、同じくらい迷惑かけてもそれ以上に恩恵があれば正義だったりするっていうのがなんだかなぁ、という感じ。何が言いたいのかよう分かりませんが、なんとなくそんな事を思ってみた今日この頃。終わりよければ全てよしって事なのか、勝てば官軍と言うことなのか。
 と言うわけで、なんだかシリアス&死亡認定第一号(主人公除く)おめでとうの回でした。次回辺り星華も後を追うかも知れませんが、まぁ、そこは主人公に主人公らしく頑張って貰うと言うことで。
 殺すか殺さないかは迷いましたが、無血革命でも頭は死ぬもんだと言う事ですね。なれ合いなど無用です。九峪が幾ら嫌がろうが戦争が始まって死人が出ないなど有り得ません。一人の首ですめば御の字でしょう。めでたしめでたし、と。


 ではweb拍手のお返事。
 21日分から。一件目二件目。

0:00 グハッ! 頭に浮かんだイメージが小説版の若い久峪と蛇渇の絡みだった((;゚Д゚)ガクガクブル
0:01 終盤に入っていまだ予想を許さない展開に今後とも期待してますねー
 といただきました。
 まずはご愁傷様です。実際書いてる本人もあの骸骨が頬を染めるシーンとか想像したりしてました……orz 怖いので記憶から消し去りましょう。お互いに。
 予想は裏切る為にある! でも期待は裏切らないようにしたいものです。まぁ、かなり難しいですが、出来るだけ頑張ります。
 コメントありがとうございました。

 三件目四件目五件目。

0:30 52話を読む前に53話が更新されているとは……感服しました。52話読んだ時点で神の遣いが紫香楽という
0:31 のは分かってたんですけどね。紫香楽=女体に溺れる、ですし(笑)。今回は天目が蛇褐になっただけですが、
0:32 どっちの場合でも相手が悪すぎるよなぁ……。実は火魅子伝SSの男キャラで一番女運ないキャラ?
 といただきました。
 52、53は頑張りましたからねぇ。まぁ、更新早くて中身が伴わなければ困りもんだと思いつつ、どうせ一回書いたらな直す気など無い作者のような人間は、書けるときに書いておくべきだと思ったり思わなかったり。しかし、52時点で気づいてくれましたか。女体に溺れてるのは確かに紫香楽の隠喩だったので気が付いてくれてれば嬉しいです。
 天目にしても蛇蝎にしても相手にするには確かに酷。まぁ、本人が自覚できないほど馬鹿なら幸せかも知れません。作者の考える紫香楽ではそこまで脳天気な幸せ者です。
 女運の無さは……、確かに随一でしょうねぇ(笑

 六件目。

1:18 蛇渇と紫香楽のコンボにやられた。こうくるかぁ……
 といただきました。
 こうくるのです。蛇蝎は実は突発的に入れたものでして、何で入れたかと言えば、ここで入れないと出番が消滅するからだったりします(笑 後は紫香楽の身の振り方に困ったと言うのもありますね。これが違う次元の九峪だったりしたら、話はまたややこしくなってたんでしょうが。
 コメントありがとうございました。

 七件目。

13:27 蛇蝎との子供がいたら最高に面白いのですが
 といただきました。
 カハッ(吐血 そ、それはさすがに、何というか、まずいような……。あの蛇蝎と九峪の子供……。どんなアクマが生まれるのやら。裏設定で魔界の黒き泉に汚染されたものどうしの子供は、その親の能力を受け継ぐというのがありまして。まぁ、勝手に考えたわけですが、だからvs紅玉の時に息子ちゃんは時を止めた上に天目の膂力で紅玉をブッ叩いたりしたワケですね。まぁ、扱いがなってないので紅玉のガードが間に合ったから死なずにすんでますが、成長するとやばいんです。
 で、蛇蝎との子供になると……。うむ、考えると怖いので止めましょう。九峪の反則能力を受け継げるというだけで無敵だしなぁ。

 八件目九件目。

23:54 DL版ちゃんと見れるようになりました。ありがとうございます。蛇蠍で筆卸って…はじめてこの九峪が
23:55 可哀相におもえた…
 といただきました。
 おお、ちゃんと見れましたか。それは何よりです。お手数おかけしまして申し訳なかったです。
 で、蛇蝎で筆卸は九峪も封印したい過去のようです。合掌。
 コメントありがとうございました。

 22日分。一件目。

18:59 彩花紫が九峪の娘って知っている人間は現状で何人でしょう?登場済みの人間だけなら10人ちょっとですが
 といただきました。
 え~と、数えるの面倒ですが、あんまり知られていません。狗根国関係者ですと、蛇蝎とその子供達の一部、深川、哥羽茉莉と本人。あともう一人知ってる人はいますが、帖佐と柚子妃は知りません。そのほかですと天目と小夜、桂、くらいかなぁ。全部で十二人くらいですね。
 コメントありがとうございました。

 二件目。

19:11 蛇褐と姫御子は以前男を取り合ったと見た!(何
 といただきました。
 その辺はご想像にお任せしますが、多分その通りでしょう。まぁ、取り合いされた男は三国一の不幸者ですが……。ご冥福をお祈りしましょう(ナンマンダブ
 コメントありがとうございました。

 23日分。一件目。

2:06 うほ!いい蛇蝎やらn(ry
 といただきました。
 うほ、では無いです。そっちだと更にヤバイことに……。想像したら吐き気が(ウプ
 コメントありがとうございました。

 二件目三件目。

4:22 うっわー誰なのかと思ってたらシガラだったのかぁ。存在ごとすっかり忘れ去っていました(w しかしこれで
4:23 クタニ残留天目その他ととラブラブ余生って目が消えかけているようで残念。
 といただきました。
 紫香楽だったのです。まぁ、誰でも良かったと言えばそうですが、このままだと出番無かったし。出さないには惜しいヘタレキャラ。原作では殺される以外使い道のないアホでしたが、盛衰記では末永くお幸せにと言ったところですかねぇ。
 そして、九峪残留についてですが……。まあ、それはお楽しみという事にしておいて貰いましょう。残念がる必要は無いかも知れないし、本当に残念かも知れないし。それは今後ですね~。
 コメントありがとうございました。

 他にも叩いてくれた方々に感謝を!


 では、今月はこれでおしまいです。ヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2006/06/24 19:53】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(1) | page top↑
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コメント
亜衣死亡、悲しいですが、妥当かも。
この場合、亜衣が生きていたら、他の女王候補や他の幹部が納得しないと思いました。
しかし、星華を九峪はどうする気かな? 死んだと思わせるかな?
しかし、確かに龍神族滅亡の全責任を当時10歳の娘に押し付けるのは酷ですね。
しかし、衣緒やう羽江が生き残って? 少し良かったです。
しかし、最近、このSSが一番楽しみです。
【2006/06/25 00:52】 URL | アレクサエル #-[ 編集] | page top↑
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