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出雲盛衰記55
 出雲盛衰記
 五十五章



 蹲っている星華を、九峪は無理矢理立たせた。

 呆然と九峪を見つめている星華。

「悪いが、干渉に浸っている暇はない。亜衣にお前のことを頼むと言われた。道は二つ。一つはこのまま逃げて、生涯慎ましやかに暮らす。もう一つは再興軍に頭を下げて意地でも耶麻台国に関わる。さぁ、どっちがいい?」

 目の前で近しいものが死んだ直後だと言うのに、九峪は遠慮が無かった。
 そんな九峪の態度に、星華は明確に怒りを覚え、そして宣言した。

「どちらも御免こうむりますわ! 私は、例え一人になろうが最後まで戦います。戦わなくてはならないんです!」
 自分の地位を追いやった火魅子候補達を、許容したらその瞬間全てが終わる。例え真実がどうあれ、他の事実など星華は信じるわけにはいかなかった。

 だから、戦う。
 例え死ぬとしても、構わない。

「それじゃ困る」
 九峪は本当に困ったようにそう言うと、亜衣の首を拾い上げて星華に突きつけた。
 その死者に対するぞんざいな扱いに、星華ははぎ取るように亜衣の首を取り上げた。

「あなた、なんのつもりで――」
「そいつがお前の事を頼むと言ったんだぞ? 全ての罪は自分が被り、お前だけでも死なせたくないと最期に言っていたんだ。ここでお前がそれを無視して死んだりしたら、そいつはまるっきりの犬死にになる。それでもいいのかよ、お前は」
 星華は亜衣の首を一瞥し、それから抱えるように抱きしめて、九峪を睨み付ける。

「だからと言って、今更私が引けるとでも思っているのですか! 何人もの人間を私の都合で死に追いやりました! 火魅子候補達だって、殺そうとして、だから今再興軍なんかにいるのよ。この状況で、何をどうしろと言うのよ。逃げ延びたところで、一生追われる身。そんなのごめんだわ!」
「――だから、そうならないようにそいつは黙って討たれたんだよ」

「え?」

 九峪の一言に、星華は当惑する。

「お前は騙されていた。それは事実だ。例え姉妹のように育ったのだとしても、亜衣が騙した側で、お前が騙された側の人間であることには変わりはない。だから、お前自身はこのまま火魅子候補を名乗っても問題ない。全てを画策していたのは亜衣一人だけで、他の全員が騙されていたんだからな」

 全ての罪を、被ると言うこと。
 死人に全てを、なすりつけると言うこと。
 星華は、そうできるほど、恥知らずではない。

「だったら、尚更嫌ですわ。そんな、そんなこと――」
「姫御子も火魅子候補の件に関しては公表する気は無い。お前はまだ火魅子候補のままだし、裏切り者を誅したと、亜衣の首を持って出れば元の鞘にも戻れる。禍根は残るだろうが、そこを何とかするのも、生かされた人間の務めだろう」
「だから、私は!」
「お前は、ただ豪勢な暮らしがしたいから、それだけのために火魅子になりたかったのか? だったら死ね。だが、真に耶麻台国を思う気持ちを持っていたというなら、これからの事を考えろ。今回の件は亜衣が被ったからいいようなものだが、このままお前まで死ねば宗像神社はばらばらになる。神事は国の政の中心だ。そうなれば当然耶麻台国という国自体に、大きな亀裂が入ったままになる。お前や衣緒や羽江は、それを防ぐ事こそが責任としてあるはずだ。火魅子候補に宗像の巫女がいるといないで大分違うだろう。お前が生きているだけで、ただそれだけで国の安定に繋がる。――もう一度聞こう。お前が火魅子になりたかったのは、自儘に暮らしたかっただけなのか?」
「――」
 そうだ、とは星華は言えない。
 そう言う気持ちもあったが、それだけでは無かったから。

「――最期まで、勝手なんだから」
 亜衣の頭を撫でながら、星華は小さくそうぼやいた。



 結局復興軍と再興軍の戦いは、なし崩しに終了してしまった。
 最終的な顛末として周りに広まった話は、復興軍を利用して裏で狗根国と取引をしていたのは亜衣で、その亜衣が嘗て同じように利用して裏切り、絶滅に追い込んだ龍神族の生き残りに殺されたと言うものだった。

 星華は九峪の指示通り、亜衣の首を持っていってこれ以上の戦闘を回避し、再興軍側もこれを受け入れた。再興軍としても、まだ狗根国との戦いが残っているのに無駄な消耗は出来ないというのが大きい。何より今回の一件で宗像神社の権威が、少なくとも再興軍内においては失墜し、亜衣というブレーンが消えた以上、組み込まれたところで今後実害は無いと判断されたためだ。

 そして、表に一切漏れることの無い人物が、これら全てを無理矢理容認させたというのが大きい。

 別れてから実に三ヶ月半。
 九峪は天目と再会していた。

「久しぶりだな、天目」
 気を利かせたのか、再興軍の天幕に二人の他に人影はない。
「……」
 天目は久しぶりに見る夫の顔を、ただ黙って見つめていた。
「おいおい、拗ねてるのか? 別に浮気したいからお前に会いに来なかったわけじゃないんだぞ」
「……そんな事など、どうでもいい」
 何か思い詰めているような天目の表情に、九峪は首を傾げる。

「なんだ? ついに愛想が尽きたか? まぁ、それも仕方ないかもしれんが」
「そんなわけがあるか! 出来るならひも付きの首輪をつけておきたいくらいだ」
「ん~、そんな事をしなくても、俺の心は天目への愛情という名の鎖に繋ぎ止められてるよ」
 そう言って、九峪は天目に抱きついた。

「ただいま」
 耳元で囁く。天目は、ぽふっと九峪の胸に頭を置いて呟いた。
「――おかえり、なさい」

 しっかりと抱き合い、互いを確認しようとする。
 久しぶりの抱擁。
 天目はただそれだけで、自分が安堵していることに気づいた。
 僅か三ヶ月半。
 それだけ会えなかったと言うだけで、自分がどれほど我慢をしていたのか、気づかされた。

 でも、狂おしいまでに愛しいこの男は、もうすぐいなくなってしまう。
 永遠に、自分の前から姿を消してしまう。
 認めなければならないことだ。

 十五年前から、分かり切っていたこと。
 変えられない運命。

 だから、せめてそれまでは思い切り甘えよう。
 思い残すことがないように。
 いつまでも、忘れないように。



 ――十五年前。狗根国玄武宮。

 黒き泉に飛び込んだ九峪と天目と深川。
 蛇蝎はそれを見てひとしきり笑った後に去っていった。

 天目はそれを水面の底から見つめていた。
 不思議なことに、九峪があれほどもがき苦しんでいた水の中に入っても、天目は何も感じなかった。
 あまりに痛みが大きすぎて、全ての感覚が麻痺してしまったのかも知れない。

 それとも、既に意識と肉体が乖離して、死んでしまっていたのかも知れない。

 必死でもがいている九峪や深川を、天目は静かな目で見つめていた。
 不意に呼吸がしたくて、顔を水面から出す。
 静かに吸って吐いて、それから真っ暗なはずの部屋が、ぼんやりと明るくなっていたことに気づいた。

 黒き泉が小波立ち、光源から流れてくる。
 天目は水面に立つ、金色の髪をした女を見ていた。

「あなたは?」
 確かにそう聞いた。だが、声は自分の耳には届かなかった。
 やはり、あちこち感覚が麻痺しているらしい。

 声は自分には届かなかったけれど、相手には届いていたようで、女は一言で答えた。
「姫御子」
 声は聞こえずとも、意思は念となって直接頭に響く。
 その畏れ多い名前は天目も聞いたことがあった。
 出雲王家の祖である耶麻台王家。その初代女王火魅子の名だ。

 それから姫御子は、天目に全てを話した。
 九峪が異世界から来たこと。
 世界の滅びが始まっていること。
 そのために、火魅子の資質を持つものが必要だと言うこと。

 まだ幼かった天目に、その全てが分かったわけではなかった。
 それでも、分かったこともある。

 それは、九峪の世界と、この世界。二つの世界を完全に引き離すのが目的だというならば、九峪はこちらの世界から出て行かなければならない。

「どうせいつか帰っちゃうんだから、その分だけ利用してこき使ってやりなさい」
 姫御子は気軽にそう言って去っていった。



 そのときの天目には、九峪以外に頼れるものもなくて、いつか帰ってしまうという九峪に、その事実を伝えるのが怖くて。
 何も知らずにただ時々故郷を思って寂しそうな顔を見せる九峪に、罪悪感を感じながらもただ自分のために真実を伝えることはしなかった。

 時が経つほどに、離れたくない気持ちは増していく。
 それでも、子が出来て、他の人とのつながりが出来ていく中で、早く割り切らねば無いと自分に言い聞かせてきた。
 だから、この三ヶ月半、天目は黙っていた。
 もう、終わりなのだと、分かっていたから。

 本当の別れなど、有耶無耶にしてしまいたいと思ったから。


 ――なのに、なんで戻ってくるか。この男は。

 嬉しと言う気持ちと、どのみちまた別れが待っているという思いの葛藤。
 九峪に抱かれた後で少し冷静になると、無性に悲しくなって……

「やはり、お前は帰ってしまうのだな」
 ずっと先送りにしてきた言葉を、口にしていた。

 今まで「帰らないよね」と聞いたことはあっても、「帰るんだな」と聞いたことは無かった。
 相手の期待を込めた言葉に対して、九峪は嘘でもそれに応えるような返事しか寄越さない。
 だから、前者ならば帰らないとしか答えないと、天目は知っていてその問い以外を口にしなかった。

「……知ってたのか」
 九峪の方も切り出しに困っていたのか、ぶっきらぼうに答えた。
「ああ」
「そっか」
 九峪は暫く天目から視線を逸らして、口にすべき言葉を探すように黙り込んだ。

「私は、帰るべきだと思う」
 九峪の胡乱気な視線が天目を捕らえる。
「じゃなきゃ、全てが終わってしまうんだろう? だったら悩む事はないだろう」
 答えなど、初めから決まっている。
 帰らなければ世界が滅ぶというなら、そこに選択の余地など無い。

 天目一人の感情など、まさしく些事だ。

「私のことなら気にするな。子供達もいるし、むしろ大変なのはこれからだ。お前のことなどどうせ直ぐに忘れる」
 そりゃ寂しいな、と九峪は返し、濡れた天目の頬を手の甲でぬぐう。

「強がるのはお前の悪い癖だな、天目。弱みを見せられるだけ信頼の置ける人間をつくっとかないと、この先持たないぞ」
「それは――」
 お前の役目だと、天目は口にしそうになって、黙り込む。
 口にしてはいけない言葉だった。
 言えば余計に辛くなる。

 代わりに何かを言おうとして、漏れ出した嗚咽がそれを遮った。

「すまない」
 九峪はしがみつく天目の頭を掻き抱くと、ただ一言、そう詫びた。













追記:
 お久しぶりの更新です。一週間別に遊んでいたワケではないのです。まぁ、この場で書いてるのが遊びみたいなものですから、遊べないと作者も辛いんですよ。まぁ、その鬱憤を日曜日辺りに発揮して、盛衰記を書き上げたワケですが。
 と言うわけで、来週までには終わるんじゃないかなぁと思います。まぁ、どういうタイミングで出すかによるんですが。

 そんなわけでももう暫くおつきあい頂ければと思います。


 では、溜まっているweb拍手のお返事を。
 24日分。四件です。

21:54 筆おろしが蛇蝎だってーーー!?いめーじいめージイメージ………キュイーンキュイーン!わーにんわーにん!
21:55 精神汚染開始しました!ソロモン防壁展開します!………ダメですっ!!防壁が次々と突破されていきます!!
21:56 あ!第37防壁で侵食が食い止められました!!フィルター全開&修正と脳内保管プログラムを開始します。
21:58 …………なんてことだ。まさか72もある精神萌防壁をここまで破壊してくるとは!!恐るべしTS蛇蝎っ!!
 といただきました。
 駄目、絶対! というフレーズが浮かんでくるほどに危険です。しかしソロモン防壁とは。ソロモンと言えば「私は帰ってきた!」な台詞がまず真っ先に浮かぶ作者はニンジン嫌いな誰かさんよりそっちの方が好きです。どうでもいいですね。ぶっちゃけ蛇蝎には今後出番が無いのでこれ以上の汚染は防がれるでしょう。
 コメントありがとうございました。

 続いて25日分。

2:26 アド聞いたものですが無事よめましたーありがとー。展開が全部斬新で面白かったです。
 といただきました。
 ありがとうございます。無事たどり着けたようで何よりですね。まぁ、斬新と言っていいのかどうか、作者的には悩みどころなワケですが、楽しんで頂ければ何よりでございます。
 コメントありがとうございました。

 26日分。

12:26 そういえば蛇蝎の黒き泉の能力ってなんなんですかね。久峪を恐怖させた擬態能力とかw
 といただきました。
 蛇蝎の能力はMP限界突破です(爆 なんか上手い表現が見つからなかったんですが、まぁ、そんな感じで赤くないのに通常の三倍のMPだったりします。なので左道をバンバン打てます。魔人をじゃんじゃん呼び寄せられます。まぁ、限界はあるわけですが。擬態能力も魔界の黒き泉で得た者の一つではありますが、年齢詐称くらいにしか使えませんねぇ。まぁ、心臓に悪い能力ではありますけど。九峪の能力とコンボになると、時を止めた三秒間の間に左道の詠唱を終えられますので、ノータイムでの攻撃が可能となって、その上割と強めの左道も使えるようになるわけです。う~ん反則。
 コメントありがとうございました。

 そして昨日分。三件です。

1:15 ん!?ペシペシ ペシペシ   あちゃ~、最近動いてないなぁ。
1:16 調子悪いのか……そろそろ新型に交換しようかねぇ…この作家(笑)
1:16 とりあえず、押入れに入れて…と。新型でも店に見に行くかねぇ……クックック(邪笑)
 といただきました。
 ぺしぺし叩かないで下さい。作者は壊れ物です。まぁ、天地無用ではありますが(謎 ともあれ、愛想を尽かさずまた見に来て頂ければ幸いです。
 コメントありがとうございました。


 他にも叩いてくれた人たちありがとう!

 で、え~と、随分ほったらかしにしていてすみません。
 アレクサエルさんからのコメントです。

亜衣死亡、悲しいですが、妥当かも。
この場合、亜衣が生きていたら、他の女王候補や他の幹部が納得しないと思いました。
しかし、星華を九峪はどうする気かな? 死んだと思わせるかな?
しかし、確かに龍神族滅亡の全責任を当時10歳の娘に押し付けるのは酷ですね。
しかし、衣緒やう羽江が生き残って? 少し良かったです。
しかし、最近、このSSが一番楽しみです。
 といただきました。
 亜衣死亡。はっ! そう言えば亜衣死んでたんですね。長い間ほったらかしにしていたので前回の記憶が飛んでいました。まぁ、でも死んでていいと思うんです。作者が殺すのは好きなキャラだけです(嘘くさ
 星華に関しては今回ですね。まぁ、結局この時代宗教と政は切り離せないでしょうから、宗像神社が廃れると、国自体が廃れかねません。なので、その立て直しは星華や衣緒と言った遺された者の責務になるのでしょうという主旨で書いたつもりですが、どうなんだろう。
 魅土が亜衣に責任を求めなかった理由としては、他にも羽江に会っていた事が大きいのかもしれません。一言も書いてないですが、あの邂逅が魅土に何らかの影響を与えていたのかも知れません。どのみち亜衣は死んだワケですが(爆
 衣緒や羽江は星華共々今後の頑張りに期待ですね。そこまで書かないんですけど、その辺の事は適当に妄想して頂ければ幸いです。
 一番の楽しみなどと言って頂ければ、最早一編の悔い無し。現世に別れを告げて……って、それは最後まで出してからにしましょう。せめて。
 コメントありがとうございました。


 さて、冒頭でも書きましたが、盛衰記自体は既に完結まで書いております。昨日十三時間くらいかけて書きました。おかげで当分文章書きたくないなぁ、なんて心境です。まぁ、もう少しで終わりますので、それまでおつきあい下さい。

 では、本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2006/07/03 17:47】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(1) | page top↑
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コメント
 星華生き残りましたね。 でも、今までの事があるから、苛められたりして(再興軍にそんな余裕ない?笑)
 
 「どうせいつか帰っちゃうんだから、その分だけ利用してこき使ってやりなさい」
 姫御子は、冗談で言ったのか。 それとも本音?

 天目との別れが近づく、悲しいですね。 しかし、これだと、別れるのに納得出来ますね。 天目が野心を捨てても、九峪に付いて行けないですね。

 悲しいですが、他の方のSSで、よく九峪が耶麻台国に残ると言う話があって、それもおもしろいですが、火魅子が即位すれば、「神の遣い」なんて、異分子に成り下がり、例えいくら火魅子と仲が良くとも、意味がなく、生涯監視付の生活か、病死か事故死でしょうね・・・・・・・多分。
 それに比べれば、まだマシでしょう。
 最高に面白いです!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
【2006/07/04 02:47】 URL | アレクサエル #xfGWKbWo[ 編集] | page top↑
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