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出雲盛衰記56
 出雲盛衰記
 五十六章



 現征西都督府、筑紫城。
 夏も終わり、すっかり涼しくなってきた。

 哥羽茉莉は周囲を囲う再興軍が撤退していくのを黙って見つめていた。


 川辺城での内紛を早々に、しかも殆ど被害も出さずに決着をつけた再興軍は、そのまま全軍で筑紫城に攻め上ってきた。

 当初の予定通り彩花紫王女は籠城することを決め、それから一月ばかり経過している。
 その間小規模な押し合いへし合いを繰り返してはいるが、哥羽茉莉の目から見れば再興軍に本気で攻める気配が無いのは見え見えだった。
 彩花紫はおそらくあの男が何か画策しているからだろうと言っていたが、哥羽茉莉にはそれだけとも思えなかった。

「撤退するのね」
 背後から声が聞こえて振り返ると、彩花紫が楽しげに笑っていた。
「ええ。狗根国からの増援が、ようやく動いたようですから」
 哥羽茉莉の言葉に、軽く彩花紫は頷く。

「相変わらず気が短いのね。それとも本国から焚きつけられたのかしら」
「さて。どちらにしろ、反乱もこれで終わります」
「そうね。反乱と呼べるものは、終わるわね」
 彩花紫の妙な言い回しに首を傾げる哥羽茉莉。

「ふふ、実は蛇蝎から使者が来たの。冬が来る前には九洲ともお別れよ」
「それは?」
「大っぴらには当分伏せられますが、大王が崩御なさったの」
 楽しげに、笑う彩花紫。
 絶句する哥羽茉莉。

「そ、それは――、蛇蝎が?」
「いえ、殺ったのはあの痴れ者。そう言うことになっているわ」
 愉快でたまらないと、笑う彩花紫。

「後の始末は、再興軍に任せましょう。さ、哥羽茉莉。九洲から引き払う準備に入りましょう」
 哥羽茉莉は、楽しげにくるりとその場で回って見せた己が主に、苦笑して頷いた。



 豊後近海に押し寄せた狗根国軍二万。
 率いるは狗根国で絶大な権力を持ち、軍における最高責任者の一人、東山。
 嘗て出雲王家を滅ぼした張本人。

 現在で言う別府湾に浮かぶ千艘あまりの人員運搬用の船。
 粛々と揚陸は進んでいくが、二万もの兵とそれをまかなう物資を陸に揚げるのは一日仕事になりそうだった。
 水際での多少の抵抗を予想していた東山だったが、案に反してそれも無い。
 拍子抜けの感は否めなかったが、この水際での戦闘が一番問題だと思っていただけに、何もないのは好都合だった。

「兵が二千纏まったら、長湯を抑えに向かわせろ」
 とりあえず指示はそれだけ。
 前情報では長湯は既に再興軍の支配下に収まっているはずだったので、籠城していると見るべきだろうが、この期に攻めてこないとはよほど兵がいないか、用兵に疎い人間が指揮官であるかのどちらかだろうと当たりをつける。

 もしくは大軍を見て萎縮してしまっているか、逃げ出した後か。

 都督攻めをしていると言う情報もあるので、そちらに全兵力をつぎ込んで、後詰めを残していない可能性もある。

 どの場合でも問題は何もない。
 罠であるという可能性も頭をちらついたが、斥候を放っているし、問題があれば直ぐに分かるはずだ。

 東山は非道な人間ではあったが、それでも戦というものを良く知っている。
 狗根国の支配域を広げるための侵略戦争で各地を巡った経験は伊達ではない。少なくとも、この周囲に長年の経験から来る嫌な感じというのが無かった。

「くく、まぁいい」
 東山の目的は二つ。再興軍を皆殺しにした上で、嘗て自分が統治していた九洲の都督長官に返り咲くことだ。
 十三年前から四年ほど、東山は九洲を支配していた。
 その時期、九洲は荒れに荒れ、殺人、強盗、人身売買、疫病、天変地異と実に混沌としていた。
 東山は趣味で人を狩ったり、喰らったりしていた。

 やりたい放題、らんちき騒ぎ。
 どの土地にも言えることだが、東山が治めた土地は例外なく荒廃する。
 それはそうだろう。東山は政など行う気が無く、その混沌とした状況こそが自らの愉悦を満足させてくれるのだから。

 そう言う意味で、現都督長官の彩花紫は対極に位置していた。
 征服した土地から効率よく搾り取るためには、単に税を上げればいいだけではないというのを知っている。そして、インフラの整備や、新たな土地の開墾などに人手を割く。
 同じ奴隷の扱いでも、殺し合わせたり自ら殺すことにしか興味が無く、苦役に付かせるにしても使い捨てにしか思っていないのが東山のやり方だ。

 ――気に入らない。

 それはずっと以前から思っていたことだ。
 機会があれば殺してやろうと、ずっと考えていた。

 そして機会は来た。
 放っていた乱破から彩花紫暗殺の報が入っている。殺ったのは反乱軍の乱破だと言うことになる。何の不自然もない。実際交戦状態にある二つの軍の間で、暗殺が起きるのは珍しいことではないのだから。

「くく、くっくっくっく」
 自然、笑みがこぼれる。
 できれば自分の手で殺したかった。

 あの矮躯を押し倒し、ズタズタに犯した後で入念に責めて殺してやりたかった。

 ――だが、まぁいい。死んだのならば、代わりの玩具はいくらでもあるのだ。

 これからの事を考えれば、笑みが止まらない。



 もぬけの殻だった長湯。
 反乱軍どころか民の一人もいない。
 その報告に訝しみながらも、人員の八割の揚陸を終えた狗根国軍は順次物資の揚陸に取りかかろうというところだった。

 念のために周囲の警戒は強めているが、不気味なほど静かで人一人いない。
 この時、東山は初めて不審というものを覚えた。

 笑みを消し、敵の意図を掴もうとする。
 斥候をさらに広い範囲まで向かわせ、空になっている長湯も徹底的に捜索させる。

 ただ逃げた、と言うならば問題はない。
 だが、全員が自主的に逃げるとは考えにくいから、反乱軍によって民は移動させられたと見るべきだった。

 だとすれば、それが意図するところを知らなければ、足下をすくわれるかも知れない。

 だが、その思考に至るまでが、あまり遅すぎて、どうしようもなく敵の策略通りであった。

「海上に小型船多数確認しました!」
 注進が入る。
 東山ははっとして砂浜から沖を眺めた。

 千艘の船の隙間から見える起きに、ぽつぽつと黒い染みみたいな船が見える。
 そして、どんどんと近づいてくる。

「揚陸作業は一時中断し、海戦の用意だ! 急がせろ!」
 怒鳴りつけるように指示を出す。
 先に運搬用以外の護衛艦隊が船首を回頭して向かってくる小型船に対する。
 運搬船は碇を引き上げたり、下ろしている途中だった荷物を下ろすか戻すかで混乱したりして、作業がもたついている。

 東山はギリリと奥歯をかみしめる。
 敵、小型船はあっという間に護衛艦隊の傍までやってくる。その数五十艘あまり。護衛艦は中型艦が主で、小型快速艇を改造した敵船は、その間をすり抜けていく。弓矢の雨によって何艘かが動きを止めたが、それでも半数以上は護衛艦隊の網を抜けた。

 その小型船の三分の二には、藁や枝が積まれている。
 意図は明らかだった。

 次々に輸送船に隣接し、そのたびに火の手が上がる。
 油も含まれているのか火勢は強く、直ぐに輸送船に燃え移る。
 船を捨てた者達は、仕事は終わったとばかりに荷を詰んでいなかった船に乗って引き返していく。護衛艦隊は近づけば自分たちも燃えてしまうので、呆然と見ていることしか出来なかった。
 そして、水平線上に、また船影が。

「第二波! 来ます!」
 悲壮感を含んだ注進が入り、東山は怒りに我を忘れてそのものを殴り飛ばしていた。



 高々度から偵察していた羽江は作戦が成功したことを確認すると、川辺城へと引き返した。
 川辺城では作戦大成功の報に、沸き立つ。
 作戦を立案した天目も満足げに頷いた。

「さて、とりあえずこれであちらは兵糧が絶たれた。近隣の村は全て引き払って喰うものなど残していませんから、通常の指揮官ならば都督へと向かうでしょう」
 天目はそう言って絵図面を指す。
 再興軍総司令官である伊雅は、それに頷いて見せた。

「確かにこうなっては友軍を頼らざるをえんでしょうな。腹が減っては戦は出来ぬ。士気は上がらず自滅するだけですからな」
「ええ。ですが、あの男は必ずこちらに向かってきます。それも全速力で」
 天目は断言した。

「は? ですが天目殿。それでは物資の補給が……」
「二万の軍ならば川辺城を一両日で落とせる。ならば、都督に五日で向かうより、こちらに二日で来て一日で落としたほうが効率がいい。アレはそう考える男です。何より虚仮にされてさぞかし頭に血が上っているでしょうから」
「む、むぅ」
 首を傾げている伊雅。

「まぁ、直ぐに分かることです。そのうち報告が入ることでしょう。どちらに向かったところで大差はありませんが」
 天目は冷たい憎悪をその瞳の奥に宿して、じっと絵地図を眺めている。

 ――せいぜいもがけ。お前だけは、必ず殺す。必ず、私の手で……













追記:
 連続更新。まだまだ行きます。って二日目で言う話じゃないですね。まぁ、出し終わったら次が無いわけで、今週中はお楽しみ下さいという話です。
 今回、話が飛んだような気がするかも知れませんが、その間の話などつまらんので書きません。つまらなくしか書けない作者でごめんなさいと言うことで、いつも通り書いてませんから。
 それで今回と次回は東山イジメです。ある意味盛衰記のメインです。だって序章で破天荒な復讐劇とか書いちゃいましたからねぇ。その顛末がいよいよ書けるわけです。まぁ、破天荒なのは九峪の人生であって復讐劇そのものではないという話もありますが……。

 さて、東山がどのように虐められるのかは、ひねりのない作者の戦術知識では味気ないかも知れませんが、読んで頂ければ幸いです。


 ではweb拍手のお返事を。
 まずは連続四件。

20:32 やあ、友よ!! 幸薄き隣人達よ! 我等はこの世界と言う鎖から解き放たれたっ!!
20:33 読む者は拒まないが、卑下するものは絶対に許さない!!
20:34 仮初の終焉。楽園の出雲盛衰記へヨウコソwwwwww
20:35 さあ、友よ!! 君もこの笛の音にあわせて世界の果てを目指そうじゃないかあぁぁぁぁぁぁぁ!!
 といただきました。
 え~と、宣伝文でしょうか? まぁ、下卑するものを許して頂かないとおそらく一番作者が許されない可能性が(爆 何やら元ネタがありそうですが、よく分かりませんねぇ。友とか出てくるとニーチェっぽいですが……。
 コメントありがとうございました。

 またまた、連続四件。

21:23 亜衣死亡、忘れていたとは、流石だな
21:25 このあとの、展開早く、見て見たい
21:27 作者さん、毎日来るから、よろしくね^^
21:27 ふふふ
 といただきました。
 亜衣の死亡は本当に忘れてましたねぇ。いえ、五十五章書いていたときはそりゃ覚えていたんですよ。でも、最後まで書き終えたときには、もう……。哀れ亜衣。
 そしてこの後の展開は、終わりまで毎日更新……、出来ればいいなぁと思います。一気に行きますので、振り落とされないように注意です。
 コメントありがとうございました。

 他にも叩いてくれたみんなに感謝を!

 さて、後はアレクサエルさんからこのところ毎回のコメントが来ておりましたね。細切れにしてレスをつけさせて貰います。

 星華生き残りましたね。 でも、今までの事があるから、苛められたりして(再興軍にそんな余裕ない?笑)
 星華はまぁ、居づらいでしょうねぇ。藤那とか伊万里とかの視線がかなりきつそうです。まぁ、九峪の取りなしで一応は決着しましたが、藤那も伊万里も、実際は味方がそれほど多いわけでもありませんし、未だに星華には衣緒を筆頭とする宗像神社の後ろ立てが健在なわけで、幾ら権力が失墜したからと行って、単純に数の問題でそれほど積極的には虐められないかも知れませんね。まぁ、二人ともそこまで陰湿ではないと思いたいです。


「どうせいつか帰っちゃうんだから、その分だけ利用してこき使ってやりなさい」
 姫御子は、冗談で言ったのか。 それとも本音?
 これはまぁ、本音でしょう(笑 姫御子自体は基本的に自己中ですので。まぁ、感情移入をしやすくて後から申し訳なくなったらしいのですが……。アホですね(爆


 天目との別れが近づく、悲しいですね。 しかし、これだと、別れるのに納得出来ますね。 天目が野心を捨てても、九峪に付いて行けないですね。
 最愛の(たぶん)人との別れ。悲しくないはずがあろうか、いや無い(反語) 九峪は世界平和の為にも帰らなければなりません。ええ、ならないのです。そして姫御子の話の通りだと、天目も追うこともできません。
 さて、その上でどんなエンディングになるのか。ぐっふっふ(謎笑い


 悲しいですが、他の方のSSで、よく九峪が耶麻台国に残ると言う話があって、それもおもしろいですが、火魅子が即位すれば、「神の遣い」なんて、異分子に成り下がり、例えいくら火魅子と仲が良くとも、意味がなく、生涯監視付の生活か、病死か事故死でしょうね・・・・・・・多分。
 それに比べれば、まだマシでしょう。
 ええ、そうですね。九峪など邪魔なだけです。盛衰記九峪は神の遣いですらありませんので、裏側をよく知った邪魔者、と言うことになるかと思います。殺そうと思っても殺せないので余計質が悪いですね。ま、盛衰記の九峪の場合、満月が来る毎にえらいことになるので、残っていても定住することはなかったと思いますが。


 最高に面白いです!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
 過分な評価、恐縮です。最後まで落胆することなく終えられれば幸いですが、どうなることか。
 コメントありがとうございました。


 では何事も無ければ明日も会いましょう。ヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2006/07/04 15:29】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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