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出雲盛衰記58
 出雲盛衰記
 五十八章



 力尽きたように崩れ落ちた天目。
 それを九峪は抱き留めると、心配そうに顔を覗き込む。

 魔界の黒き泉で力を得た天目は回復量も並ではない。このくらいなら寝てれば治るだろうと、九峪は安心する。

「妬けますね。本当にその子の事好きなんだ」
 金色の髪が月明かりに輝いている。

「ああ、愛してる」
 九峪は臆面も無く断言する。
 その答えに、姫御子は少しだけ辛そうな顔をした。

「ごめんね。でも、あなたは帰らなければならない」
「そうしなきゃ、世界がぶっ壊れるんだろう? 選択肢はない」
「……本当に、ごめんなさい」
 姫御子は、涙さえ流して頭を下げている。

 九峪は変な奴だなと思いながら、天目を背負いなおすと麓に向かって歩き始めた。

「天空人なんて、この世界の人間にとって見れば神様みたいなものだろう? お前はどうも人間くさいよな」
「なんですか? 突然」
「もう少し頭ごなしでも、誰も文句は言わないだろうに、って話さ」
「そんなこと、嫌です。寿命が長いとか、能力が優れているからとか、そんなことで生命の価値が決まるとでも思ってるんですか?」
 逆に聞き返され、九峪は面食らう。

「さぁな。そんなに難しい話をふったつもりもないんだが」
「言いたいことは分かります。立場を考えれば確かに私は偉そうでもいいんでしょう。その方が、きっと九峪君も私を恨めて楽だろう、って思います。でも、私もほどほどに偽善者なので、恨まれたくはないし、そう言うつもりで君をこの世界に連れてきたとは思って欲しくない」
「卑怯者め」
「何とでも仰って下さい。まぁ、九峪君は優しいですから、きっと分かってくれると信じていますけどね」
 そう言われるとムカツク、と九峪。

 姫御子は慌てて取り繕うとするが、九峪はへそを曲げた振りで姫御子を追いつめる。

「大体理解できないからって説明もなしで放り込んで、フォローも一切なし。俺が死んだらどうするつもりだったんだよ。色々トラウマ出来たぞ? しかもこの後元の世界に戻ったら浦島太郎状態じゃねぇか。どうするんだよそこのところ!」
「え、あの、それは大丈夫。九峪君の記憶とかは全てリセットしますから」
「あ? なんだそれ。聞いてないぞ」
「あれ? 言ってませんでした? でもその方が辛くないでしょう?」
 困惑する姫御子を手加減抜きで殴りつける。

「痛たぁっ! 何ですかいつもいつもぽかぽかと人の頭を」
「それはどうしても必要な事なのか?」
「へ?」
「記憶を消すって言う奴だよ」
「いえ、あの、九峪君はその方がっていう話ですけど……」
「やらなくていいなら、このままでいい。ああ肉体年齢は戻してくれたほうが助かるが、って同じ時代に戻れるんだよな?」

「ああ、はい。それは大丈夫です。まぁ、一月くらい行方不明という感じになりますけど」
「それくらいならまぁ、何とかなるか」
 九峪はため息を吐く。

「あの……、なんで記憶はこのままでいいなんて。きっと辛いですよ? それに、色々と大変だと思いますよ。人を殺した記憶とか、目の前で殺された記憶とか……。それで、あの世界で大丈夫なんですか?」
 心配そうな姫御子の言葉。
 九峪は苦笑する。

「なぁ、姫御子ちゃんよ。俺の記憶は消しても、こいつ等の記憶はそう言うわけにはいかないんだろう?」
「はぁ、それはそうですね」
「だよな。俺の記憶消したら、誰の子供か分からなくなる奴が増えちまう。天目なんか、産んだ記憶がないとか言って自分の子供を捨てるかも分からん」
「増えちまうということは、既に九峪君の子供だけど九峪君を父親だと認識していない子供が相当数いるということですか?」
「――(無言で殴る)」
「痛いです! 一々叩かないで下さいよぅ!」
「じゃあ、余計なことにツッコむな。そっとしておけ」
 九峪はそう言ってこほんと一つ咳払いをする。

「だったらよ、俺がいなくなってこいつ等が悲しい思いしてるっつーのに、俺だけ都合良くそれを忘れるなんて、そんな無責任なこと出来ないだろ」
「不特定多数の女の人と関係を持つのは無責任じゃないとでも?」
「――(グーで頬を殴る)」
「がふっ! な、何、する……」
 天空人だけあって九峪のグーパンなどそれほど利いていないのか、痛そうにしながらもそれだけの姫御子。

「余計な事にツッコむなと言ってるだろ。次は目突きでいくからな」
「はぁい」
「で、何の話だっけ? ああ、そうだ。とにかく記憶は消さなくていい。無責任云々もそうだけど、全部無かったことになんてしたくないんだ。この十五年間を、無かったことになんてな」
 色々なことがあった。

 天目との邂逅。
 出雲王家の滅亡。
 魔界の黒き泉。
 蛇蝎の馴れ初め(限定的に消去したい過去)。
 沫那美との逢瀬。
 深川との別れ。
 耶麻台国の滅亡。
 忌瀬との出会い。
 志野の救出。
 藤那との出会いと別れ。
 魔兔族三姉妹との攻防(一方的な陵辱)。
 大陸での日々。
 半島での一悶着。
 そして、ここ数ヶ月の再会と出会いの連続と、復興戦争。

 生きているのが不思議な、と言うより実際何度も死んでる十五年間。

 それを、全て無かったことになんて、出来ない。
 辛いことや忘れたいこともたくさんあったけど、それでもやっぱりなくすのはもったいない。

「姫御子」
「はい?」
「お前に一つだけ感謝していることがある」
「え? なんでしょう」
 意外そうな顔をしてみせる姫御子。
 九峪は少しだけ、もったいぶってから口を開いた。

「初めに、こいつに引き合わせてくれてありがとう」
 姫御子は、ますます面食らった表情になった後、嬉しそうに微笑む。

「いえいえ、どういたしまして」
 そう言って、少しだけ救われたような顔を見せた。



 それからまた二月ほど、時間は経過する。
 姫御子が世界を完全に分離する儀式には、耶牟原城の神殿が最適なので、都督を彩花紫達が引き払った後水抜きをして、さらにその後水底にあったため堆積していた泥を掻き出す作業などで手間取ったためだ。

 表向きは火魅子選定のためと称して、実質は大規模な陣を構成するための依り代として火魅子候補達――と狗根国王族だが資質を持っている彩花紫――だけが神殿に入る。
 事情を知っている関係者十数名が立ち会いの下、九峪との最後の別れが行われていた。

「無責任の極みですね、父上。ですが安心して下さい。あなたがいなくてもこの星は回ります」
 無慈悲な言葉は息子の桂のもの。
「クソ親父。元気でね」
 なぜか涙声なのはいつもは口汚い小夜。
「最後に名前くらい決めていけ」
 すっかりお腹が目立つようになった雲母。九峪は苦笑して、じゃあ雅比古と自分の名前を言う。
「最悪だな。お前の事……おもいだす、じゃ」
 そのまま泣き出す。慌てる九峪を尻目に、雲母を無造作に蹴り飛ばすと忌瀬が進み出る。

「やぁ~、良くわかんないけどおめでとう。ヤリ逃げ成功だね!」
 常に明るい忌瀬らしい餞別だった。ちなみに忌瀬のお腹も雲母と同じくらい大きくなっている。別に太ったわけではないだろうから、その原因は一つだ。
「九峪殿。耶麻台国復興は、ひとえに貴殿のおかげ。国民を代表して感謝申し上げる」
 堅苦しい伊雅は最後まで堅苦しかった。
「……」
 清瑞は伊雅に習って黙って頭を下げている。九峪は苦笑しながら頭を撫でてやった。

「九峪……」
 そんな清瑞を押しのけて、珠洲が九峪にしがみつく。
「寂しいよ。私」
「うん、志野と仲良くな」
「うん。元気でね」
「珠洲もな」
 珠洲は頷くと下がっていった。

 続いてウサギ三姉妹。ここ二ヶ月、夜の間はずっとくっついていたので今更別れというのも、と思っていた九峪だったが、あちらの方は三人とも滂沱の涙を零している。あの兎音でさえ。

「九峪さ~ん。寂しいわ。最後に一口だけ」
「記念に腕一本くらい貰っていい~」
「兎奈美、どうせなら頭にしよう」
 などと物騒な事を言っている。なかなか凄い絵面だ。

「三人とも、俺の頭はすでに二つはやってたと思うが……」
 この二ヶ月、満月になると問答無用でもがれていたのだ。狂喜のような食欲を我慢して、その頭を貯蔵していたはずだったが。
「でも、もう二度と九峪さんを味わえないかと思うと……」
「そうだなぁ」
 九峪は悩んでいるフリをして時を止めると、瞬時に超強力睡眠薬(魔兔族用)を三人の口の中に放り込む。
 三人は一瞬で昏倒する。

「……」
 そんな光景をため息混じりで見つめていた深川は、黙って九峪に近づくと唇を重ねた。後方からのヤジを無視して暫くそのままでいた深川だったが、最後に名残惜しそうに唇を離し、さよならと一言言って部屋を出て行った。

 そして、最後の面会人。

「達者でな」
 二人の間に出来た子供を、その手に抱いたまま、天目は呟くようにそう言った。

「お互いにな。ガキの事は頼む」
「うん」

 二人はきっちり五秒間だけ見つめ合い、そして同時に踵を返した。

 別れの言葉は散々この二ヶ月で口にしてきた。
 心は、もう決まっている。

 姫御子はようやく別れがすんで、戻ってきた九峪を自分が編んだ方陣の中央に招く。

「じゃ、これで本当のお別れね。何か言っておくことはない?」
「なんか処刑されるみたいで縁起悪いからいい」
「そう。では、始めます」

 姫御子は普通の人間には判別不可能な高速言語を用いて呪文を詠唱していく。
 世界そのものを分離するという、途方もない規模の奇跡。
 正確に言えば、これ以上の干渉を防ぐための壁を作るのだという。
 世界を球体と捕らえれば、九峪の元いた世界と、この世界とではまだ接触すらしていない状態。
 姫御子はその二つの世界の予想接触面に壁を作り、そしてこれ以上近づいても交わることが出来ないようにする。
 実際はもっと複雑で様々な理論があった上での話なのだろうが、単純に言えばそう言うことだ。
 そして、この術を完成させるために、姫御子はこの十五年間殆どを九峪の世界で、その構成要素を解析するために暮らしていた。

 十五年という月日は、つまりそれに要する時間だったのだ。

 次元毎に生物無生物問わず、存在比というものがある。本質的な世界の構成量。
 九峪の存在比と、姫御子の存在比。それが近しいものだった。
 そして、若干の誤差修正のために、紫香楽があちらに一度飛ばされたりもした。

 全ては、このために。

 姫御子の、呪文の詠唱が止む。
 九峪の身体が発光し、十五年前のように身体が浮かび上がる。

「で、姫御子。お前は俺の仕事の報償を身体で払ってくれるって話じゃなかったか?」
 九峪の最後の疑問。このまま戻ったら、肝心な女と出来ない。

 姫御子は笑って答えた。

「私の子供達と散々関係を持てたんだから、それでいいでしょう? じゃあね」
 最後の最後で、踏み倒された。

 九峪が苦笑を浮かべた瞬間、姿はかき消えていた。

「ふぅ」
 姫御子はため息を吐く。

「終わりました。これで九峪君は無事に元の世界に帰れましたし。さて、それでは火魅子の選定もさくっとやって……」
 火魅子候補は、この儀式への適応の無い、つまりは姫御子の力を継いでいない香蘭と星華も含まれている。柚子妃もこの場にいるが、それは血と資質は継いでいても立場上火魅子にはなれない彩花紫を送ってきたためだ。

「どうかなさいました?」
 姫御子は言葉の途中で固まって、九峪にを見送りに来た連中をまじまじと見つめる。
 そして、ぎぎぎと擬音が聞こえそうなほどぎこちない動きで、彩花紫を見つめる。

「姫御子様?」
 不思議そうに首を傾げる彩花紫。


 姫御子は、暫く押し黙って何事か考えた後、ぽつりと呟いた。



「間違っちゃった……」

 その言葉に、その場にいた全員が凍り付いた。













追記:
 いよいよエンディング。そんな事より更新早いんじゃないのかというツッコミに関しては、今日は徹夜で明日は昼間寝てると思うので今というタイミングしか(まぁ朝方でもいいんだけど)無いという話だったりします。後から見る人には関係ないけどね。

 さて、九峪は帰りました。グッバイ永久に。二度と戻ってこないでしょうし、最後に姫御子が何かをやらかしました。まぁ、別に最後だからやらかしたとかそう言うわけでもないような……。色々です。

 次回はその他大勢のその後なので少々つまらないかも……。まぁ、脇役の所在など適当でいいという、とても自ままな作者の意志を反映して、適当なエンディングです。なので、六十章の真のエンディングをお楽しみにと言うことにしておきましょう。


 web拍手のお返事です。
 お一人様三件ですね。

19:57 GJ! 異世界トリップ物は最後がどうなるかが肝心ですからね。
19:58 世界を行き来できる、なーんてご都合なENDは書かないと思ってますよ。
20:00 さてさて、残りも少なくなってきましたが終わり方はどうなるんでしょねー。元世界に強制帰還で一票でしw
 といただきました。
 そうですよねぇ。世の中全てを得られるものじゃありませんから、元の世界と行き来も可能で、都合のいいときだけ女を漁りに異世界に飛べて、その上無敵補正で死ぬこともなく、ゴクラクのような暮らしが出来るなんてエンディングは断固として認めません。何か掴めるとすれば、せいぜい一つくらいなもので、結果としては行く前と後でプラスマイナスゼロになっているのがバランスとして丁度いいのかなぁとか、思ったりもします。ご都合主義が嫌いなわけではありませんが、エンディングくらい、最低限納得してもらえるようにしたいなぁと思っています。
 まぁ、読み返すと突っ込みどころ満載なんですが(爆 ともあれ強制送還は完了しましたので、後は最後の姫御子の間違えの意味、それだけが重要になりますね。
 コメントありがとうございました。

 では本日はこれで。ヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2006/07/06 00:19】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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